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人権コラム(平成31年4月号広報掲載)
人権さまざま 163
60年連れ添った妻に先立たれ独り身になってしまいました。日毎夜毎寂寥だけをみちづれにくらしています。でも泣き言ばかりでは生きてはいけません。なんとか前をむいていこうとしています。近所には相手をしてくれる人も見当たらず、朝から晩まで料理番組がよく放映されるテレビをヨダレをながしながらみています。料理にかぎらず私どもの世代からは想像さえしなかった世の変わり方を愚痴のようにかみしめます。新婚時代は七輪に炭火をおこしてから始めなければなりませんでした。子どもが生まれ母乳が乏しかった妻の手助けに湯を沸かさなくてはなりません。マホウビンは二人目のこどもになってからもまだ手もとまではやってはきませんでした。
洗濯も手もみでおむつを洗いました。夫だけふところ手でいられる状態ではまったくなく、共稼ぎの妻とほとんど均等に家事をこなさねばなりません。後に提唱されはじめた男女共同参画の先駆者?の世代であったともいえます。
今は家中が冷暖房完備、24時間、スイッチひとつでお湯が生まれ、極楽とはこんなところかとおもうほどのぜいたくが完備されています。そしてそのあと二人揃って百歳まで、が理想なのですが、どっこいそうはまいりません。偕老同穴のつもりが、無惨にもどちらかが生き残り、寂しい老後を迎えるのがおきまりとなってしまいます。老後に困るのは話し相手がいないことです。テレビでは一方的におしゃべりはしてくれますが、こちらの話は通じません。老人たちがほしいものは「話し相手」です。若者達の仕事場にいっても、ほとんどがパソコンの画面ばかり見てニコリともせず御仕事をしています。世の老人たちよ。どうか話し相手をみつけてください。老人に限らず人は何よりもコトバを告げ合うことにこそ幸せがうまれるのです。SNSで知りあっただけでは真の友人にはなれません。訪ねていったらただちに殺されたという事件さえありました。行く前にきちんと話せる相手を見定めることが何よりの第一歩です。
東京の孫夫婦に男の子がうまれ、毎晩のように動画が送り届けられ成長ぶりに驚くばかりです。凄い世の中ですがほんとうは生身のヒマゴに触ってみる幸せを願っています。
四万十市人権啓発講師
山本 衞