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人権コラム(令和元年6月号広報掲載)
人権さまざま 165
堺屋太一氏が亡くなりました。通産省高級官僚から大臣にまで昇り、大阪万博を主宰、後年は沖縄海洋博まで執行して、作家としても揺るぎない地位を築き上げた方でした。
私よりも年下でしたので真に残念に思います。
多くの作品の中に好きなエッセイがあります。高名な考古学者に訊ねたときの様子を書いた文章です。
「人類が最初に家畜にした動物は何ですか」。老大家は一瞬首を ひねった末、「多分、羊でしょう」と応えたといいます。
牧畜民が多く、家畜といえば、馬、牛、駱駝がある。なかでも羊は飼いやすい。大きくて性格もおとなしい。肉、皮、毛、角まで余すところなく利用できる。何よりも群をなす習性があるので、集めやすい。
「犬はどうですか…」
「犬は別なんです」「犬は人類が飼いだしたのではなく犬の方から人類に近づいたので、人間のいるところ必ず犬がいます」
人類は技術を磨き、農機具を作って多くの食糧を得る。しかし、歯は弱く舌はなめらかで多くを食い残す。さらに貪欲で、食糧を過剰に蓄え、相当量を食べきれずに捨てる。現代でも生産の4分の1は現場で廃棄、次は流通過程、あと家庭や外食で廃棄され、人類が口にするのは総生産量の4分の1だけ。それでも太りすぎて多く悩んでいる。犬はこの人類の肉体的不器用さと性格的貪欲さを察し、犬の方からまとわりついてきた。
ライオンとハイエナの関係だが、違うのは友好的主従関係になったことだ。人間が従順なものを愛する感情をもっているのまで見抜いていた。何世代にもわたって犬はそれを子孫に伝授してきた。(1)喜怒哀楽の表現方法、(2)主人を見分ける能力、(3)絶対服従の従順さなど。「犬をまねた人類が生き残ったのは千切れるほど尻尾を振ったものの子孫だけが生き残ったからだ」ともいいます。ゴマすりやヨイショの術に長けた者が大勢いてもふしぎではありません。ただ少し能力が低い。それゆえ犬がリーダーになったとき悲劇が起こるのだ…。
老大家の話はそんな内容だったとか。あらためて身辺を見回すと、家畜そっくりに真似をして生きている人間も、至る所に居りそうだと思いながら、楽しく読み返しています。
四万十市人権啓発講師
山本 衞