広報しまんとコラム 「人が人らしく」  平成18年7月号 

★人権さまざま★15
   山村の小学校に赴任した頃、近く新しい教科として発足する予定の生活科を事前研究しようと決め、その手始めに、小鳥を飼ってみることにしました。
 校舎中庭の築山や植え込みの周りに、間伐材で骨組みを作り、それを漁網で囲み、敷地が一アール以上もある大規模な小屋をつくりました。少しでも豊かな色彩をほしいと考え、きれいでかわいいカナリア、ベニスズメ、ジュウシマツなどを小鳥屋から仕入れて放ちました。
 何しろ大自然そのままで屋根もなく、吹きさらしの真っ只中に鳥籠から出された小鳥たちは暫くの間、飛ぶことさえ忘れていました。その後、一週間以内に半分以上は死んでしまいました。ところが、生き残った小鳥たちは、元気一ぱい飛び回り、そのうち、周りの草や枯れ枝を集めて巣作りを始め、ほどなく雛が孵りました。ふしぎなことに小鳥屋から購ってきた人工の巣箱には全く見向きもしませ
ん。年末の豪雪の中でも生き延びて、賑やかに囀り、数もどんどん増えましたが、温かくなるにつれて一羽、二羽と減っていきます。どうしたことかとみんなで原因を探ってみると、なんと犯人は蛇だったのです。築山の中に潜み、毎日一つずつ胃袋におさめていたのでした。そのことから、私たちは「子育て」の大事なことを学びとりました。
 この小鳥たちは、ほかならぬ今の子供達の姿そのものではないか、生きる為には、鳥籠から出して、大自然の中に放たねばならない、でも、そこには子供に危険な蛇も存在する、それを守るのが親や教師たちの役割ではないか、という教訓でした。
 私は長く、社会教育の仕事についていました。その指導の中に「キカンボウの教育」という合言葉がありました。「飢寒乏」と書きます。温々と腹一杯喰って育っている現代っ子に、時には飢えを体験させよう、寒さの中で鍛えよう、貧乏を味合わせようー、というもので、実際に小さな無人島や少年自然の家などで体験学習させるというやり方でした。何年かぶりに学校に戻ってきて、図らずも最初に私が確認したものが、小さな小鳥から教えられた、飢寒乏の教育の実践だったのでした。
 
   四万十市人権啓発講師   
         山本 衞
 

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